経験とは、人を成長させ、人生を彩るために不可欠である。
故に、何でも積極的に取り組むことが人間には大切なのだ。
例えそれが、小さなものであっても、経験したという事実は自分の中に積み重なり、意味あるものになると信じたい。
だから、あの日の経験もいつか意味あるものになると信じたい。
こちらは、呉市焼山に住む友人の折畳み自転車である。
買ってはみたものの、使うことがなかったらしく、私は頂戴することにした。
そして私は、その自転車でいかにも私らしい計画を思い付いた。
よっしゃ、いっちょ家までコイツで帰るか!
距離は約百キロ。
無論、折畳み自転車は長距離には向かない。
が、それが却って私を高揚させた。
当然、この計画を聞いた時、大学からの友人は爆笑していた。
しかし私は結局、二月二十二日、十七時半。
友人の苦笑いを背に受けながら実行した。
友人のアパートは焼山の中腹辺りにあり、まずは坂を上って山を越えなければならない。
車輪の小さい折畳み自転車では思うように進まず、最初の難関となった。
それでも、坂を上りきってしまえば、後は下るだけ。
思いのほかスピードが出るので気を良くし、「ここからは俺のステージだ!」などとのたまってみると、ちょうどこちらに向かってくるロードバイクの男と目が合った。気まずかった。
坂を下りるとしばらく平地が続き、医王山・薬王寺にたどり着く。
ここに建つ弘法大師の石像に旅の安全を祈り、写真を一枚。
ここを過ぎると、安浦へ下りるために再び坂を下ることになる。
が、車が多く、電灯も少ないのでどうしても慎重になる。
その途中で打ち捨てられたガソリンスタンドを見つけた。
人の息吹の消え、荒れるに任せた人工物は、一種独特の不気味さがある。
安浦に到着後、ドライブインで牡蠣丼をかっ喰らい、第二ラウンド。
幸い安浦は海沿いの平地を進むだけなので、楽ではある。
港が近いせいもあり、至る所で、
こんなのがある。
因みに、安浦はドラマ『平清盛』のロケ地に使われた柏島があるそうなのだが、暗くてどれがどれやらわからない。
二十一時。竹原に到着。
寄り道をして街並み保全地区に入ってみるが、やはり
昼間は風情ある街並みも真っ暗け。
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アニメ『たまゆら』の舞台なのだが、この町を楽しむのは次回に回し、三原へ向かうことにした。
この山越えこそが、今回最大の難所だった。
坂が急で遂に漕ぐことができなくなり、
この橋を最後に灯りさえなくなり、辺りは闇と静寂に包まれる。
幽霊が出てきてもおかしくない。本気で怖くなった。
地味にピンチである。
だが、ピンチはチャンス!
私はスマホでYoutubeを呼び出し、音楽をかける。
今は自分一人、何を聞いても構わない!
外で一度やってみたかったのだ。
文明の利器ってすっげえ――!!
そんなアホなことをしている内に三原へ。
見慣れた景色の安心感が半端ない。
そのまま一気に尾道まで行く。
深夜零時。
尾道商店街は意外と人がおり、夜遊びは控えましょうなどと突っ込みを入れてみる。
尾道大橋の美しい夜景を撮り、後はひたすら福山へと急いだ。
そして遂に帰宅。
時刻は一時半過ぎ。
実に八時間にも及ぶサイクリングだった。
それからすぐに風呂に入って寝たが、七時半のスーパーヒーロータイムには目を覚ます。
我ながら変なところで根性がある……
しかしやはり疲弊していたのだろう。
内容が頭に入ってず、結局何が起きたのかよく覚えていない。
態々このために夜間を爆走してきたというのに、何ということだ!
失意のまま二度寝し、起きたのは正午だった。
この経験がのちの私にとってどんなものとなるのだろうか?
それはまだわからない。
(薬剤科)